run




To ME / Remaster 2003

1996年頃から、ある事務所との間で作品のやり取りが始まり、ここでの方針が自分の作品のスタイルに多少反映されるようになりました。「ひつじ Songs (1996)」の頃は「自分の製作する作品=完成品」という認識でしたが、それ以降、創作物は「作品のストック」という意味合いが強くなってきます。アレンジ的にも必要最小限の部分しかないような、あっさりしたものが増えました。実際、時間もあまり無く、凝る余裕は無かったのです。それらの作品は、そのままストックとして手元に残り、完成品ではなく暫定的な形のまま放って置かれました。
その後、ライブ活動の為に過去のレパートリーを全てさらい直した際、これらの不本意なまま放っておいた幾つかの曲のメロディやアレンジを新たに練り直しました。これらの作品は、ライブでもこの形で披露されたので、ライブを聴いた方々には、そのメロディが浸透していることになります。せっかくスタジオ録音バージョンが存在しているのに、そのバージョンが不本意な出来のせいで公開できない状態になっているのは非常に残念だと考えました。そこで、これらの作品を「リ・プロデュース」することにしたのです。着手は 2000年の1月で、まだライブ活動中のことでした。この時に注意したのは「オーバー・プロデュースを避けること」ですね。再び創り直すということになると膨大な時間と手間が掛かります。それに、いくら不本意とはいえ、僕自身、長年親しんだ音ですから、愛着もあります。ですので、その当時のイメージを極力残したままリメイクすることを心掛けました。
この作業は 1曲を除いて全て完成し、「To ME」という作品集として 2000年の冬の終り頃、関係各所に配布されました。ベスト盤CD「マルコ・ポール」が発売中でしたので、余り大っぴらには公表しませんでしたが、出来映えは、個人的には、ほぼ納得できるものだったと思います。前にも言ったとおり、曲は「必要最小限の部分」しかありません。「デモ以上プリ・プロダクション未満」という感じの音だと思います。或いは「図案以上テストプリント未満」とか、そんな感じでしょうか(笑)。それまでの作品に比べ、非常にとっつきにくい部分もあると思いますが、そこがまた辛口で、なかなか良い感じに仕上がったと思います。ここには本質しかないのです。足りない部分は、聴いた皆さんが各自それぞれ、想い想いの色を付けて頂ければ、それで良いと思います。

その後ライブ活動を一旦休止し、新作の製作に入りました。そこで僕は1996年当時のレコーディングが非常に困難な作業の連続だったということを思い出しました。また同じことを繰り返すのか…と思うと、ちょっと呆然としてしまいました。時間も無いし、機材も僕自身も経年劣化しているし(笑)、果たして耐えられるだろうか、と。正直思いました。その頃の僕は絶望のどん底に居ましたから、ポジティヴな考え方が出来なかったのです。それでも数曲の録音に取り掛かりましたが、機材関係は案の定、まったく不調の連続で、気が滅入り、もう凹みまくりでしたね。本当にどうしようかと思いました。僕の曲や録音は、これらの機材も含めての「味」だった、と長年考えて来たのですが、「これは遂に潮時だ」と心底思いました。そんな折り、ちょうど良いタイミングで友人から新しいシステムを紹介されました。これについては、可能性も含めまったく未知数だったので、かなり迷ったのですが、「まったく同じ音を再現してやれば、それで良いではないか。この俺なら必ず出来るはずだろう?」と開き直り、遂にシステムの総入れ替えを決意しました。2002年に総入れ替えが完了し、音の流れをつかむ作業に取り掛かりました。幾つかデモを録音し、可能性を試したのです。実際やってみると、かなり大変だと解りました。使い方くらいは、すぐ覚えられますが、ともかく、まったく初めての作業の連続で、もう根本から100%意識を切り替え、頭の中も 180度転換させられました。やる以上は以前のクォリティ以上のことを出来なければ意味がありません。
そうして遂に 2003年、デモではなく「完成品」へと繋がる作業に着手しました。これに関しては、偶然ですが、非常に良い素材が残っていました。2000年に遣り残した1曲「冷たい夏」です(詳しくは後で述べます)。これのリミックス完成を機に「To ME」そのもののリマスターも行いました。ついでなので当時の曲目に 2曲追加し、お徳用バージョンにしてみました。
今回のリマスターの際に、再度、全曲リミックスを行おうかとも一瞬考えたのですが、既にマルチのテープがかなり劣化しているので、もう無理ではないかと思い直しました。実際 2000年の時点で、もうギリギリだったのです。それに、これ以上過去の作品に関わるのも、時間がもったいないだろう、という判断もありました。前に進む時が来たのだと思います。あとは新曲を発表するのみです。楽しみですね(笑)。 - [2003年6月26日 談]



Remix 2000 解説
ここからは、かつての「不本意ミックス作品」を 2000年のリミックス時にどのように修正したのか、具体的に説明していきます。

Ever Green MAN
メロディが三箇所変わったので、その部分のリード、ダブり、ハモリを全て歌い直しました。まったく違和感が無いのが凄いです。あとは空いているトラックにアコースティック・ギターを追加。
録音当初「不本意だった」原因は、その殆どがトラック不足によるものでした。DA88は8トラックしかありません。ですので録音の際は、方程式を解くような綿密な計画性を以って収録する必要があるのです。はじめのバージョンの頃は時間不足で、それが不可能でした。これはミックスにも言えることです。当時のミックスはかなり適当だったと思います。2000年のものが完璧というわけではありませんが、元の音が良くないので、現状が取り敢えずベストな感じもあります。今聴くと、ちょっと Drums がデカイですが。
時間不足の弊害は Vocal録音時に最も顕著に現われます。Vocalは、たいてい最後に録音するからですね。ダブル・トラックになっているテイクが多いのも、そういう理由からです。粗雑になった部分を目立たなくする為、2度同じラインを歌い、それらを重ねてしまうわけです。しかも、これらは全て 1トラックにまとめられてしまっていました。これもトラックを節約する為ですね。したがってリミックスの際も、Vocalトラックをシングルに分離することは不可能でした。これは「To ME」収録の殆どの曲に共通することです。この修正が出来ないことは、かなり残念でした。
Vocal録音の弊害は、それだけではありません。この曲の場合は時間が無いので、メロディを良く練らないまま録音してしまいました。その後、新たな良いメロディを思い付き、ライブでもそう歌っていたのですが、スタジオバージョンの方は長年訂正できず、本当に心残りだったのです。この2000年リミックスでは、その悲願の修正が叶いました。本当に嬉しかったですね。


キミの中の「僕」
これは 1999年の新録音作品で、そのときのままです。この曲のレコーディングで最重要視したことは「Vocalをシングルトラックで、ちゃんと歌い通すこと」でした。それのみ、と言っても過言ではないかもしれません(笑)。他の収録曲が前述の理由から、殆どシングルトラックがなかったので、その分こちらに、かなり力を注ぎました。試みは、ほぼ成功したのではないかと思います。


永遠のプラトニック
これも 1999年の新録音です。僕の作品はエコーやリバーブが多いのも特徴でした。ここでは敢えて、それら全てを排除してあります。そういった装飾ナシで、どれだけのものが創れるか試してみたかったのです。この試みも成功したと思います。でも音作りは、かなり苦労しました。ここでの苦労が新システム導入のきっかけになったと言っても良いでしょう。既に旧機材では新しい音に対応し切れなくなっていました。
曲自体も個人的にかなり好きです。これは。


等身大 Memories
歌詞が1箇所変更になったので歌い直しました。その部分のトラックに余裕があったので、悲願のシングル・トラックが可能に!わずか 8小節ですが、これは嬉しかったです。あと2箇所ほどギターを足してあります。殆ど気付かないと思いますが。ミックスも元のバージョンに比べると、かなり良くなったと思います。ポイントは「鉄板リバーブ」。これの数値やデータをセッティングするのに、けっこう苦労しました。なかなか80年代っぽい寒さが良い感じで再現できていると思います。この曲もかなりのお気に入りで、リニューアルは本当に嬉しかったですね。


To ME
これは殆どデモ状態でした。イントロにカウントが入っているのもそのためです。便宜上というよりは「これはデモだぞ」という証として入っているカウントですね、これは。なので、このカウントが無いと、曲の存在理由自体なくなってしまいます。
リミックスの際、Vocalのタイムを全体的に修正しました。あとは間奏が寂しかったので、音をちょっと足しました。これだけでも印象がずいぶん違う。おもしろいです。


虹をつかむ男
Bメロのコードをちょっと変えたので、ハモリを歌い直し。で、ついでにその部分のバッキングをハモンド風音色に差し替えました。後半のサビで Drumsの打ち込みミスが在り、長年気に掛かっていたのですが、辻褄合わせで(笑)トーンダウンする箇所を作りました。これでメリハリも出たと思います。でも苦労した割には、やはり、あまり好きになれませんね、これだけは。演奏は良いんだけどね…。


冷たい夏
唯一、2000年にリミックスできなかった曲です。元のミックスがかなり入り組んでいて、当時のシステムでは再現が不可能だったのです。かなり細かくフェーターを動かしていると思います。新システムではオート・ミックス機能があったので、これをクリアできました。もうひとつ、リミックスを躊躇していた理由があります。あちこちで書いていたことなので、ご存知だと思いますが、1番AメロのVocalがフラットしているのです。これを歌い直すか、放置するか、当時は決められませんでした。今回はこれも、とあるツールにより無事クリア。「なんだ、インチキじゃん」と仰る方も居るでしょう。全然かまいません。僕は元を活かした方が良いと判断したのです。これらの修正は、作品の質に何ら影響を及ぼすものではないと「僕は」思います。リバーブは、ここでも「鉄板」が大活躍。寒くて良い感じです。この曲も個人的お気に入り。復活できて本当に良かったですね。


Drive To 1996
今回のリマスターで付け足した曲です。このHPで、オリジナル曲の週代わりDLサービスを行っていたことがありました。その初回が始まる前、試験的にサーバーに置いておいたものがこの曲です。その時に偶然DLされた方もいらっしゃると思います。実は、その頃録音した新曲だったのです。これのマルチのテープは破損してしまい、もう再生できません。ですので現存しているのは、このミックスのみということになります。機材トラブルですね。本当に潮時だったのです。そのトラブルの関係で、演奏部分は 2トラックにまとめられており、残り 6トラックが存分に使えたので、コーラスを入れられるだけ詰めこんで遊びました。その実験の為のみに存在している曲です。

この曲が未収録だった以前の「To ME」と比べると、今回の「To ME」はビーチボーイズの「ワイルドハニー」や「20/20」を彷彿とさせるような、おもしろい作品集になりました。どこか「祭りのあと」風な寂しさが漂っているのですね。そこに気付いたので、僕自身も楽しく作業が出来たのです。


bonus track
少年の10月

1993年に創った古い曲ですが、その1st バージョンもマルチテープ破損の憂き目に遭ってしまい、長年リミックス不可能になっていました。1996年頃、東放学園の実習で、この曲を歌って欲しいと依頼が来たのですが、その時点で既に当時のマルチは再生不能でした。そのため新たにカラオケを作る必要が生じ、急遽、短時間でリメイク録音をしたものがこのテイクです。新システム移行の際、テスト用楽曲としてこれを使用、様々な実験をしました。ハモリはカラオケのまま、リードヴォーカルは、なにかの折りに仮に入れておいたものを使用しました。今回特に入れる必要もないと思っていたのですが、良く考えてみると、この曲は現在、どの作品集にも入っていないんですよね。ライブではほぼ毎回演奏していたし、対外的にも僕の中ではかなりの代表曲なのに、スタジオバージョンがないというのも変なので、これを機会に入れることにしました。古い作品なのでちょっと違和感がありますが、ボーナスということなら皆さん納得していただけるのではないでしょうか。


REMASTER 2003
2003年。新たな 「To ME」の収録曲を決定した後、トータルでリマスターし直すことにしました。「Ever Green MAN」で低音削減処理を行い、あとはレベルを揃えたりしました。以前より聴きやすくなったのではないかと思います。- [2003年6月27日 談]




all music and lyrics by からかわまこと
produced and performed by からかわまこと



★ REMASTER 2006
2006年版、新リマスターがリリースされました!

購入はコチラ → iTunes クリック!

 

- thanks to -

ヒロ ヒロユキ for photo
TOHO Gakuen for 少年の10月
h-wonder for equipment
Big Horn for live days
Good Audience for live performances
Beach-Bu for Drive To 1996

Copyright 2003 karakawa makoto
all rights reserved.







  Back