The Beatles
(初出2003年 / 2009 モノボックスリリースに際し一部修正加筆 *2014追記!)
ビートルズに関してのミックス違い考察サイトは、ネット上に山のようにあるから、ここでは情報についての詳細は書かない。楽しみ方を紹介しようと思っている。僕がモノ・ミックスというものの存在を知ったのは1970年代中盤頃、モノ・ミックス・レコードが限定発売された時だ。何故か知らないが、いきなりオリジナルモノラルシリーズと銘打って、ビートルズの一連のアルバムがステレオとは別に発売されたのだ。その頃の僕は、残念ながらモノラル・ミックスというものの存在を、あまり認識していなかった。ただステレオをモノにしただけじゃないの?なんて、とんでもないことも考えていた。あの頃はレコード会社を信用していなかったからね。彼らの商法に何度騙されたことか(笑)。そんなわけだから、さして注目することも無く、ただ見過ごしていた。その後の出会いは
CD化の際。ジョージマーティンの大英断で、初期4枚がモノラルバージョンでの発売となったからだ。これには、がっかりした人も多いんじゃないかな。僕も、それを知ったときは怒りまくっていたのを覚えている。その後、我々にとってのバイブル「レコーディング・セッション」が発売される。そこで書かれていた内容は衝撃的なものだった。なんと当時、ステレオ・ミックスは、どちらかというとオプション扱いでやっつけ仕事、モノラル・ミックスのほうに力を入れていた、というのだ。しかも発売は殆どモノラルが先。中には、ずーっと後になるまでステレオ・ミックスが作成されていない曲まであった。実は、その頃の僕は既に、日常では殆どビートルズを聴いていなかった。そういった文献を読んでも、殆ど記憶のみで「ふむふむ、なるほど」と納得していたのだ。逆に言えば、それくらい昔は聴き込んだということであるが、せっかくの機会なので久々に、幾つか実際に聴いてみることにした。聴いてみて驚いたのは、自分の音楽の聴き方がすっかり変わっていたこと。昔は楽器や声などを中心に聴いていたが、いつのまにか楽曲や歌声としての声、メロディライン、コード進行など、総合的に聴くようになっていたのだ。そういった耳で聴くとステレオ・ミックスは非常に聴き辛かった。リズムセクションが中央に定位していないことも、イライラ感を倍増させた。アンプや
Mixer で強制的にモノラル化して聴いてみたりもしたが、かえってバランスが悪くなり、聴けたものではなかった。ヘッドホンで聴くと、不快感は更に倍増した。試しに「SGT.
Peppers」のテープを Walk Man に入れて出掛け、電車内で聴いてみた。そこで聴く通常バージョンは、PANを振り切っているドラムやBassばかりが喧しく、曲そのものの詳細は殆ど聴き取れないという、何がなんだかさっぱり判らないシロモノだった。「これじゃぁ何の為に聴いてるのか判らん!」と強く憤った僕は、これが直接のきっかけとなり、オリジナル・モノラル・ミックスの入手を固く決意したのだった。
シングル曲などは CDシングル・ボックスや CD EPボックスなどがオフィシャルでリリースされていたので、簡単に入手できた。問題はアルバムだ。ビートルズのミックス違いアルバムは、コレクターズアイテムになっており、非常に高価だった。だが何とか手を尽くし、これらも入手することができた。で、実際聴いてどうだったか?そりゃあ素晴らしかったさー。ブイブイ来たね。中学時代以来、久々に、純粋に
1ファンとしてビートルズを堪能できた。ビートルズ!いぇ〜ぃ!って感じだったよ。
Back To MONO ?
この記事を読むと、僕がモノラルを薦めているように思うかもしれないが、実際はそうでもない。だが当時のレコーディング技術では、ステレオ・ミックス自体無理があるのも事実だし、彼ら自身もモノを重視していたとなれば、これは避けて通れない道だと思うのだ。実際聴いてみても、殆どの曲ではモノ・ミックスの方が良かった。バランスも良く、小さいスピーカー(ひとつだけ)で聴いても楽しめた。
そんなわけだから、みんなも聴いてみたら良いんでない?と言ってるのである。特に今まで、「ビートルズは、どうも苦手だ」と感じていた人には、是非試してもらいたい。ステレオが、良く言えば「生々しい」悪く言えば「適当」なのに対して、モノラルはちゃんとした「仕事」っぽく「商品」として仕上がっていることに、驚く筈である。
当時のまま楽しもうとするなら、「モノラル専用針」で「UK オリジナル盤を聴く」というのが筋なのかもしれない。だが僕は、ミックスが判ればそれで良いので、その辺はあまり気にしない。聞こえ方の違いはあるだろうが、ある程度耳が補正してくれるし、マスタリングの違いにまで拘るつもりはない。当時のエンジニア(ジェフリー・エマリック、アラン・パーソンズ、クリス・トーマス、ノーマン・スミスなど)やマーティン氏が、どのような音を創りたかったか、そのヒントが判ればいいのである。決して「アイテム主義」なわけではないんです。
初期
僕らの世代はステレオが通常盤だったが、ご存知のように初期4枚は、当初モノラルでCD化されたので、そこから20年あまりの間、ステレオ盤の方がレア・アイテムとなっていた(2009年リマスターにより、全てステレオ化!)。確かに最初の
2枚のステレオ・ミックスはどうかとも思ったが、続く2枚は、ステレオでも良かったのではないだろうか?逆に4枚目までモノラルにするのだったら、少なくとも「RubberSoul」まではモノラルにすべきだったのでは?と感じている。マーティン氏も年を取ったのか、周囲の意見に惑わされてしまったようだ。残念である(その後判明した情報に寄れば、時間の制約など理由はいろいろあったようだ)。
さて、初期のモノラル・ミックスは、すっきりと聴きやすいものになっている。僕も始めのうちこそ戸惑いを隠せなかったが、慣れると心地良くなり、今ではすっかり嵌っている。CD発売前までの通常盤だった、完全セパレート型ステレオ・ミックスも、ある意味面白いとも言えるが、音楽を聴いているというには程遠かった。これは初期に限らず全体に言えることだが、ボーカルと楽器が同時に耳に入ってくるというのは、実は大変素晴らしいことなのである。「音楽そのもの」を楽しむことが出来るのだ。モノ・ミックス、つまりオリジナルのミックスは、聴きやすさや気持ちよさなど、非常に良く考えられていると思う。2トラック・テープレコーダーであればステレオ録音も可能だった筈だが、ジョージマーティン氏はそうしなかった。後から微妙なバランスを取れるよう、演奏とボーカルのトラックを分けて録音したというのだ。臨場感を生かすよりレコードに刻む「ビート音楽」としてのバランスを重視したのである。このことからもモノラル重視の方針が見て取れる。
「With The 〜」の頃には 3トラックが導入。より凝ったサウンドとなっている。普通なら、分離しているステレオの方が各パートも良く聞こえる筈だが、不思議なことに、ビートルズのモノラル・ミックスはそれぞれの楽器の演奏がちゃんと聞こえる。製作者側の耳が、かなり良かったということであろう。これも素晴らしい仕事である。なお「Money」の両バージョンは、かなり印象が異なっており、まったく別バージョンだと言っても良いくらい(実際それに近いのだが)。
「A Hard Day's Night(アルバム)」の頃には 4トラックとなり、しばらくこの時代が続く。幾つかの曲で、ヴォーカルがシングルトラックとなっており、曲そのものの良さが際立ったミックスとなっている。このアルバムは何処か、ごちゃごちゃした印象があったから、これは嬉しい。
「For Sale」は、ステレオの泥臭い雰囲気を聴き慣れていたので、さっぱりしたモノラル・ミックスは、どことなくクールな印象を受けた。ちょうど、あのジャケット写真のようなイメージである。CD化されたビートルズしか知らず、初期のステレオ盤を聴いたことがない人は、このアルバムには、ずいぶん地味な印象を持つのではないだろうか?当時の世評も、そんな感じだったらしい。確かにモノラル盤を聴くと、そう言われているのも判る気がする。面白いものだ。個人的には「No
Reply」のモノ・ミックスが、ドラマティックなステレオ・ミックスに比べると大人しくて、かなり物足りない。
Help !
このアルバムと次のアルバムは、87年CD化の際、リミックスが行われている。いずれも旧ミックスを参考に、限りなく近いイメージに仕上げたということらしいが、元がヒドイ「Rubber
Soul」はともかく(笑)、このアルバムに関しては最悪の結果になってしまった。弄り倒したあげく、「何処にも無い」ミックスとなってしまったからである。初めて聴く人ならともかく、旧来のステレオ・バージョン(MONO
BOXで復活!)を楽しんできた人にとっては違和感ありありで、いたたまれないだろう(ステレオでもモノでもそのまま出せちゅぅねん!)。
この頃はちょうど中期への移行期にあたるが、新たな試みも準備不足ということで、粗が見え隠れする。また、ジョンのパフォーマンスにも若干疲れが見え始める。モノラル・ミックスは、それらが上手くマスキングされるよう、工夫されているような印象を受ける。タイトル曲は切り貼り編集が激しく、ちょっと痛々しい。
Rubber Soul
個人的には、一番モノラルで聴きたかったのはこのアルバム。これのステレオ・ミックスが最悪のシロモノだからだ。当時はあくまでステレオがオプションであったことを考えると、これくらい斬新なのもアリかな?という感じもしないでもないけど、それを正規盤にするこたーねぇんじゃねぇの?このアルバムは中期の名盤のひとつといわれてきたが、そんなわけだから僕にはまったく理解不能だった。当時の僕は音響特性なども含めて評価する傾向があったから、ミックスの時点で、もうダメダメだったんだろうね。
で、モノラルはどうだったか?評価はかなり上がったけれど、全体的には、まぁまぁかなという印象だった。やはり楽曲にばらつきが有るのは、モノでも隠せないようだ。「ドライヴ・マイ・カー」のような、グルーヴ一発!みたいな曲は、やっぱりモノの方がヴイヴイ来てカッコ良かった。次作「リボルバー」寄りな作品は、ステレオでもモノでも印象は変わらなかった。往年のジョンレノン名曲群は総じてモノ・ミックスの方が良かった。つまりハード的アレンジ的に面白いものはステレオでも楽しめて、歌ものとして成り立っている楽曲第一主義的な作品は、モノの方が聴きやすいということだろう。逆に言えば、この頃からロック音楽というものが、パフォーマンスだけでなく、音響特性も含めた総合的レコーディングアートのような形に変化してきたということでもある。メディアとしての「LP」の可能性は当時未知数だった。勝負は、誰がそのメディアを一番早く極めるか、にかかっていたのだ。マーティン氏やハリケーンスミスは、ここでの斬新なステレオ・ミックスで、その可能性への道を開いたと言えないこともない(たぶん)。
モノで聴くと、この時代のジョンレノンの素晴らしさが際立つのは確か。彼特有の手抜き感も上手くマスキングされるし。純粋に曲の良さを楽しめる。
Revolver
この辺になると、ステレオはステレオとして楽しめるようになってくる。特にこのアルバムは音が良く、演奏重視な感があるので、Panを振り切ってあるステレオは、サウンドトリックを深く知るのに最適である。SEなどが多用されているのも特徴で、しかもステレオとモノラルでは、その入る箇所が大きく異なっていたりもするから、通常聴いているミックスで慣れている人は、少々戸惑うかもしれない。「Got
To Get You Into My Life」エンディングのポールのフェイクも、モノとステレオで激しく異なっているが、これは意外に知られていないようだ。今までどおりアンサンブルや曲を楽しもうとする人は、モノを聴くと良いだろう。
SGT. Pepper's Lonely Hearts Club Band
これもトリック満載アルバムだが、意外にモノラルが合う。「何と言ってもモノバージョンの方が本当の SGT. Pepper's ですよ」という当時のエンジニアの発言も残っていることだし、是非一度聴いてみるべき音源だろう。
さて実際には、どのような違いがあるか?ステレオは、その広がりや自在な Pan 操作で、万華鏡のようなトリップ感が味わえるが、モノラルは奥行きと存在感がある。ステレオが派手な舞台なら、モノラルは良く出来た映画。部屋いっぱいに華麗なバンドの音が広がるステレオに対し、モノラルは、小さな宝石箱が力強く鳴っているような感じ。またモノは定位が終始変わらない(当たり前だ)ので、非常に統一感がある。本当にこういうバンドが実在していて、演奏しているような気がしてくるのだ。もちろん「かたまり」感も素晴らしい。それに比べるとステレオは、バンドという感じが、あまりしない。
個人的に一番興味深かったのは「Good Morning 〜 SGT.」の繋ぎ部分。「鶏の声とギターの音を合わせた」というジェフ・エマリックの有名な発言があるが、モノ・ミックスではギターの音も、ちゃんと「コケ〜」となっている。なかなか笑える箇所だ。タイトル曲で被さって来るオーディエンス・ノイズなどは、ステレオとモノでタイミングが異なっている。また「She's
Leaving Home」は、モノの方が半音ほどキーが高い。ポールの声質から考えると、この高い方が本当ではないだろうか?実際こちらの方が聴きやすいし、僕も好みだ。
Soundtrack for Yellow Submarine
リリースは69年であるが、うち3曲は、この時期のレコーディングなので、ここで書いてしまおう。アルバム「Yellow Submarine」のモノバージョンは、ステレオバージョンをそのままモノにしただけなので、両者のバランスの違いは殆ど無い。ただし、そのような事情から、世間では「偽モノ」と呼ばれ評判はよくないようだ。
「Only A Northern Song」のステレオバージョンはモノ・ミックスを元にして作られた擬似ステレオだった(09リマスターではモノ・ミックスに戻され収録された)ので、これは論外としても、他の曲の「偽モノ」は、両者に同じマスターを使用することを考慮したのか、どちらで聴いても良いバランスになるよう、ミックスが工夫されているように感じる。「It's
All Too Much」「All Together Now」の2曲とも、それほど違和感のある感じはしない。とは言うものの 67年独特の、きらきらしたモノ・ミックスの雰囲気というのも、やはり捨て難いのは事実である。
そういった我々の悲願が遂に関係者に通じたのか、残りの曲の真性モノ・ミックスが、2009年 MONO BOXで遂に復活を果たした。ただし「It's
All Too Much」については、68年ミックスであり67年オリジナルではない。元々が8分あるということも含めて当曲の「真性オリジナルミックス」がオフィシャルとなることは今後もないかも知れない(アニメ「イエローサブマリン」のサントラとしては(カットがあるが)聴くことが出来る。オリジナル音声で使用されている同曲は真性オリジナルミックスである)。
Magical Mystery Tour
もちろん EP 2枚組のほうだ。「I Am The Walrus」のモノ・ミックスは、未聴の人でもある程度想像できる。この曲のステレオ・ミックスの後半部が、擬似ステレオになっているからだ。これは、この部分のミックスが込み入っておりステレオ・ミックス作成が不可能だったかららしいが(どちらを重視していたか、このことからも歴然)、モノミックスは、その後半部を、もっとスッキリさせた感じだと思えばいい。特に前半は
SEが無いので、普通のバンドっぽいサウンドが聴ける。SGT. の項でも書いたがステレオ・ミックスは、楽器などが各パーツとして聞こえてきてしまい、あまりバンドという感じがしないのだ。モノで聴くと、この頃はまだ、バンドとしても一体感があったのが良く判る。案外見過ごされがちだが、ビートルズのバンドアンサンブルというのは、想像以上にタイトである。タイトル曲も然り。「Your
Mother Should Know」の全体にかかっている妙なフランジャーは、ちょっと頂けないな。
Early 1968
インドに行く前に行われた有名なセッション。結果的にシングル「Lady Madonna/The Inner Light」が発売されただけだが、実際は他にも
2曲レコーディングされている。そのうちの一曲は「Hey Bulldog」で「イエサブ」用に廻された。余談だが「Lady Madonna」プロモ映像は実は「Hey
Bulldog」レコーディングシーンである。最近これを元に「Hey Bulldog」のプロモビデオが製作された。興味の有る人は見てみると良いだろう。
さて、この曲のモノ・ミックスも、フィルムに光学音声として刻まれているオリジナルサウンドトラックでしか聴けなかったが、09リマスターで悲願の復活を果たした。ただ、前述のように「Yellow
Submarine」収録バージョンも、それほど違和感のあるミックスではない(Bassが大きく、かなり迫力のあるものである)。
もうひとつの曲は「Across The Universe」。ジョンが、上手く歌えなかったのでボツにしてくれと言ったという、例の有名なテイクだ。没にはなったものの、レコーディングは一応完成、ちゃんとモノ・ミックスが作られている。これは実際入手するのは現時点では不可能。ただし後年のリリースバージョンは、どれもこの時のテイクを元に作られているので、例えば「野生動物基金」バージョンのスピードを落とし、イントロの鳥エフェクトを外せば、オリジナルに近い音になるのではないだろうか。
なお09リマスターで同曲のモノミックスも収録されたが、オリジナルではない。「Hey Bulldog」オリジナルミックスが遂に日の目を見た今、同セッションでの未発表ミックスは「Across
The Universe」のみとなった。
White Album
この頃になると 8トラックが導入されるなど、時代も変わり、ステレオ・ミックスもかなり良くなってくる。特にこのアルバムのドライな感じはステレオ独特のもので、捨てがたいという人も多いだろう。「Ob-La-Di」のハンドクラップ、「Helter
Skelter」の有名なコーダ部分など、ステレオでしか聴けない音も結構あり、どちらも外せないと思う。各種SEも、両者で場所が若干異なっている。
「Sexy Sadie」のBass入り部分が、モノ・ミックスでフェイドインとなっているのは有名だ。これはプレイのタイミングがずれているのをマスキングするためと思われる。ステレオでは、さほど気にならない部分なので、少々神経質では?とも思ったが、このステレオ・バージョンをアンプでモノラルにして聴いてみると、確かに目立つのだ。モノではアンサンブルが際立つ、という判りやすい実例だろう。逆に言えば、こんな些細な部分から、彼らの微妙な心離れを感じ取ることも出来る。
余談だが、個人的には当アルバムがジョン・レノン最後の「Beatle Album」だと思っている。The Beatlesはジョン・レノンのバンドであり、そこにポール・マッカートニーという天才バンド・マスターが参加していた、と僕は考えているからだ。当アルバムからジョン・レノン作品のみを抽出し、メンバーの曲を適度に絡めて再構成してみると、それはより明確になる。「With
The」や「Hard Day's Night」を進化させたような素晴らしい「The Beatles」のアルバムになることに気付く筈。つまり当アルバムの正規タイトル「The
Beatles」そのままである。一般的には散漫だという印象が強い当アルバムであるが、アルバム1枚分にマテリアルを絞れば名盤になる、というジョージ・マーティンの意見も、そう言った意味では一理あったのかもしれない。
更に余談だが、ポール・マッカートニーは当アルバムでアメリカに対する恋心を吐露しているように見受けられる。別な意味での「望郷」だったのかもしれない。ポールの楽曲だけ抜き取ってみると、既に「Wings」の影が見え、そこにジョン・レノンはもう居ない。
番外編 1 Get Back
未発売アルバムということで、ここのコンテンツとは直接は関係ないのだが、オリジナルという点ではまったくの無関係でもないし、せっかくなので別コーナーとしてアップすることにした。→
フィル・スペクター極悪人説
番外編 2 US編集アルバム(2014年
US BOX 記載あり)
これも、アーティストの許可なく編集されたアルバムということで、当ページの主旨「オリジナル」という観点からは最も遠いものであるが、いくつか興味深い点があるので取り上げてみたい。
ご存知のように、米国では当初 Beatles は受け入れられず、結果複雑な契約となってしまい、本国とは別のフォーマットで数々のアルバムが乱造されている。マーティン氏やメンバーたちがそれを快く思っていなかった事実は数々の文献から明らかであるが、それもアーティストとしては当然であろう。しかし、ビートルズのレコードの最大の市場は北米だったのであり、不本意に編集されたアルバムであってもその売り上げ枚数は膨大なものであって、結果、それらを当時耳にした人々も下手をすればオリジナル以上の膨大な数に上るはずである。これは無視できない存在だろう。
米キャピトル・レコード社は収録曲目を勝手に入れ替え編集しただけではなく、その音さえも米国好みの音に改変している。モノしか存在しないバージョンは擬似ステレオ化し、低音を効かせたりエコーをかけて迫力を出したりしている。多数のミックス違い曲も収録されているので、余裕のある方は一度聴いてみるのも良いだろう。
公開された映画に合わせた独自のサウンドトラック・アルバムも米国では製作されているが、これも映画のBGM等が収録された面白いもの。一本目のA
HARD DAY'S NIGHT サウンドトラックは UNITED ARTISTS 社が編集発売したもので、ジョージ・マーティン氏のインストが、いにしえの欧風な造りで良い味を出している。二本目のHELP!(CAPITOL社が編集発売)は監督リチャード・レスター氏とマーティン氏が仲違いした為、インスト曲も別な作曲家の担当となった。これがなかなか不気味で面白く、シタールが多用されているなど、後のジョージ・ハリスンの音楽性も示唆している。サウンドドラック・アルバムに関しては、こちらの考察も参考にしていただきたい。→
架空のサウンドトラック・アルバム
「Magical Mystery Tour」も米国独自編集であるが、米国以外本国などでも人気があったため、CD化にあたって正規採用されたのはご存知のとおり。
だがCDはその収録曲だけ踏襲したのであって、実際の編集はアナログとは異なっているので注意が必要だ。米国版はその直前のアルバム「SGT
Peppers」の流れを受け、全編に渡って曲間なしの編集となっている。また後述するが「Strawberry Fields Forever」のミックスも異なるもの。また「Walrus」のイントロも有名な米国仕様。後半3曲は擬似ステレオとなっている。これに似たもので「Hey
Jude」という編集アルバムがあるが、これは全曲リアル・ステレオ収録となった。ただいくつかのトラックが左右逆の位相になっているなど細かい違いはあるので、侮れないものである。
全 Beach Boys、Brian Wilson ファンにとって、もっとも興味深いのが「Rubber Soul」であろう。かの有名な
「PET SOUNDS」 は「Rubber Soul」にインスパイアされた、とブライアンが常々語っているのだが、その「Rubber
Soul」が実はオリジナル版ではなく、米国編集版であると思われるからだ。これはオリジナル版とは印象がまったく異なるもので、ブライアン&ビーチボーイズ・ファンならば是非一度耳を通すべきものであろう。
2004
緊急告知 Capitol Albums, Vol.1 〜 Vol.2 発売!
モノ・ステレオ両バージョンの収録ということですが、基本的にUS盤のモノミックスはステレオミックスをそのままモノにしたバージョンが多いので注意。ただし、今回のCDに収録されるのがどのバージョンなのか不明なので、今後の情報を待ちましょう。
→ 判明しました!
Capitol
Albums, Vol.1 〜 Vol.2 は、全て米キャピトル社オリジナルのマスターで収録されました。米独自のモノミックス、ステレオミックスあり、ステレオをそのままモノにしたものあり、のバラエティに富んだ内容が、そのまま再現されたのです。素晴らしい仕事です。
*
2014 THE U.S. BOX 発売!
過去の2ボックスは素晴らしい仕事でしたが、2014 BOX はあまり褒められない内容のようです。実は「いくつかの特殊な米ミックス」を除き、ほとんどが09リマスター音源(英国&世界標準マスター)に差し替えられている、と言われているのです。そこで実際に聴いて確認してみましたところ、以下の状況が判明しました。
*重要!!モノミックスのいくつかは09リマスターのままではなかった!
これについての考察を以下に記述します。
忘れがちな事実ですが、実は09リマスターの際の音作りの方向性について、ステレオミックスと MONO BOX収録のモノミックスとでは、若干ですが、差があります。モノミックスのほうが、より「ナチュラルな傾向」に仕上げてあったのです。今回の「U.S.
BOX(原題 U.S. Albums)では、1枚のCDに、ステレオ版と、そのモノ版、そして「特殊な米ミックス」が混合されて収録されるため、それらの差異を失くすため音質音圧を揃える必要が出てたと思われます。そうした場合、バラバラに揃えるよりも、アルバム丸ごと米国マスターを使用したほうがよい(手間の意味でも統一感の意味でも)、と判断された場合もあったのではないか、と想像できます。そういう意味では、それらの曲については、ミックスは09世界標準と同じだったとしても
マスタリングは2014米国リマスター ということになります。
ということで、2014 US BOX について、特にモノミックスに関しては、例え09ミックスと同じミックス(のように聴こえる)曲であっても、そっくり09リマスターのまま使用したのではなく、今回のボックス用にリマスタリング、もしくは米国マスターを使用したものがある可能性がある、ということですね。これはこれで、新たな発見と、また同時に一波乱ありそうです。今後の考察が望まれます。ビートルズ物語は尽きませんね。
各種シングル盤
シングルは、結構モノラルで売られていたので、耳にした人も多いと思う。CD時代になっても Box が出たりしたので、比較的入手しやすい。どれも、不自然なバランスが解消された、いかにもシングル、といった感じの単刀直入ミックスとなっている。個々について述べることも特にないが、それもなんなので、幾つか書いておこう。
「Paperback Writer」は当時、針飛びが起こらないかと心配するほど Bassのレベルを上げた、とのことだが、今聴くとそれほどでもない。結果的に、シングルの半年後に作成されたステレオ・ミックスの方が、もっと大きくなっている。また、モノラルに掛けられているキツいリミッターも気になる点だ。これは「Revolver」も同様で、この時期共通の運用だったと思われるが、少々耳に疲れる処理だ。ギターのレベルが大きくロックっぽいモノもカッコイイが、個人的には
Bassが大きくストレートな、ステレオ・バージョンも捨て難い。
「Strawberry Fields Forever」は、ステレオ・ミックスが印象的なだけに、モノは少々物足りなさが残る。時間が無かったのか、迷っているような優柔不断ミックスの箇所が幾つかあるのだ。曲自体の完成度が高いだけに、これは残念。余談だが、この曲は、アメリカ盤「MMT」の
LPに収められた US ステレオ・ミックスが、個人的に一番好み。機会があったら是非聴いてみて欲しい。
関係ない話だが「Let It Be」は、日本盤だけ何故かモノラルだった。しかも、これはステレオ・ミックスを、ただモノにしただけのテイク。リリースの都合でこうなったらしいが、この曲のステレオ・ミックス(マーティン版)はバランスが悪いので、モノの方が聴きやすい感じもする。
Oldies
数年に渡ってオリジナルモノラル・ミックスを収集してきたが、最後に一曲だけ残ってしまった。それが「Bad Boy」だ。
その「Bad Boy」が収録されているアルバム「Oldies」は 66年暮れにリリースされた、英国での初ベスト盤で、この曲以外は、全て既発のヒット曲で占められている。当時は日本でも、ビートルズ入門編として人気があったが「赤」「青」の発売により人気急落、CD化のラインアップからも漏れ、長らくレア・アイテムとなってしまった。
某ショップで「Oldies」オリジナルモノを見つけた際、「Bad Boy」一曲の為に入手するのは…と、躊躇いがあったのも事実だが、これを入手しなければコレクションが完結しないので、思い切って
Get した。この曲のステレオ・ミックスはバランスが悪く、かねがね不満に思っていたので、そう言った意味では、モノの入手はまさに満を持した感があり、最後を飾るに相応しいアイテムとなった。そして2009年。遂にCD化となり、ようやく普通に聴けるようになった、というわけである。
曲は「Help!」レコーディング時のストックで、ステレオ、モノ、両バージョンとも、同アルバム収録の「Dizzy Miss Lizzy」に近い。この時期特有の、ジョンの破裂ヴォーカルが炸裂しているので、合わせて聴くと楽しめるだろう。
語り納め
この一連の収集を終えて、僕が感じたのは「ビートルズはプロだ」ということだった。これらのオリジナル・モノラル・ミックスを聴くまでは、僕の考えるビートルズの魅力というのは、トボケたような、スカしたような、力が抜けたような、それでいて曲は素晴らしく、カッコ良く、天性のアーティスト、てな感じだった。だが、オリジナル・モノラル・ミックスを全て聴いてから、その認識が
180度変わった。まったく見当違いも甚だしかった。ビートルズは恐ろしい「プロフェッショナル集団」だったのだ。曲創り、パフォーマンス、レコーディング、全てにおいて「プロ」だったのだ。本当に、どれも素晴らしい仕事だった。彼らのそのキャリアにおいて、殆ど手抜きというものは存在しなかった。全てを聴き終わり、その全貌を知った後、僕自身、音楽に対する感覚が変わり、何事も、非常に真面目に、真摯に捉えるようになった。
オリジナル・ミックスには、音楽の仕事とは何か?という、その問いに対する答えが有る。だけど、それを理解出来るか出来ないかは、自分次第なんだなぁ。とてつもなく冷徹な師匠なのである。ビートルズという奴らは。
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