The Rolling Stones (初版2001年 / Update →2016年 / 関連 コチラ参照




遂に 60年代 MONO MIX コンプリートBOX が出ました!
それを踏まえて補足を加えています。


オレは Stones にそれほど造詣が深いわけではないが、彼らの 60年代スタジオ盤のヘタレ具合には、昔から泣かされてきた。特に当時はビートルズばっかり聴いていたから、どうしても比較して聴いてしまい Stones の音の悪さ、バランスの悪さが、余計際立ってしまったのだ。曲は好きなものもあったが、そればっかりはどうしようもなかった。だがビートルズのモノラル・ミックスに興味が湧いて以来 Stones も実は 60年代には、モノラル・ミックスが主流だったのではないか?と疑いを持つようになった。西新宿エリアを歩く際、時折 Stones 関係の店にも立ち寄ってみたが、ビートルズに輪を掛けて Stones のUK盤は高価だった。 しかも殆ど出物が無いようだった。確かに、彼らのライブ盤を集めてる人にはよく遭うが、普通のスタジオ盤に拘りがあるコレクターなぞ、あまり聞かない。オレの希望は叶えられることなく終るかと思われた。そんなある日、60年代のシングルをコンプリート収録した 3枚組の CDボックスを入手。そこに収録されていた「Mother's Little Helper」を聴いてオレはブッ飛んだ。その曲が未だかつて聴いたことのない、モノラル・バージョンだったからだ。それはステレオ・バージョンとは、まったく違っていた。ステレオのようなヘタレ・ミックスではなく、実に締まったカッコイイ・ミックスだったのだ。やはり、これはモノラル・ミックスを入手すべきだ、と決意を新たにし、もう一度モノラル探しの旅に出ることにした。今度は無事入手。早速聴いてみた。果たしてどうだったか?素晴らしかったよ、そりゃあ。これじゃぁ当時の若者も熱狂するはずさ。イカス?イケテル?シビレル?どれでもいい。とにかくカッコイイよ。聴いてよかったね。素直にそう思うよ。


初期
初期作品は、基本的にモノラルでしか出ていないので、特に言うことはない。オレは「1st.」の音がカッコよくて昔から好きだった。だから個人的に、彼らの 60年代モノ・ミックスは是非「1st.」みたいな音にしてほしいという願望があった。だが、それは無い物ねだりだろうと思っていた。しかし実際は存在していたのだ。それを知ったときは嬉しかったね。
「Out Of Our Heads」は US仕様でCD化されてしまったので、UK仕様は現在は入手が難しい(祝CD化!)。どちらが良いかは好みの問題だろうが、シングルが収録された US盤はどこか散漫な印象がある。ただの寄せ集めという感じ。それが悪いというわけではないが、この頃のシングルは特にポップなので、浮いてしまうのだ。UK盤の方が、彼ら(ブライアン?)の趣味が良く判るのは確か。

2016年補足
ファーストの音が好きだと書いたが、確かに荒々しくて好みではあるのだが、今回のリマスターによる「しっかりした」音で「No2」「Out Of Our Heads」を改めて聴きこんでみたところ、米国録音のクォリティが如実に判り、彼らが米国レコーディングを重視していた理由が音でハッキリと伝わってくる。輪郭や奥行きがクリアになり、各楽器や担当についても、とても判りやすい。またそれによって彼らの成長もくっきりと見えてくるのである。ファーストの音はそれはそれとして、今回は 初期のサウンド的には 米国レコーディングのサウンドを「理想的」 として推したい。


Aftermath
オレは長いこと、このアルバムの良さがまったく理解できなかった。みんなが良いというが何処が良いのか、さっぱり判らなかった。60年代最大の駄作だと決めつけていた。ところがモノラル・ミックスを聴いて 180度ひっくり返ってしまったのだ。これは名盤である。特に、好きな曲だけ選んで聴くと、そのカッコ良さは極め付けだった。既に出来あがっているのである。70年代も、80年代も、すべて、これと同じなんである。彼らの音楽活動は、ぜ〜んぶ「Aftermath」なんである。これにはかなり驚いた。


Between The Buttons
逆に、オレにとって若干評価が下がってしまったのがこのアルバム。ミックは、このアルバムのことがあまり好きじゃないらしい。そうかもねぇ、なんて妙に納得してしまった。ステレオの時はそれなりに面白かったが、モノラルで聴くと、捨て曲のような楽曲が耳に付くようになってしまった。
それでもステレオよりは、モノの方が締まった良いミックスになっていて聴きやすい。特にそれは、ブライアン活躍のサイケ路線「ではなく」、前作の傾向を踏襲した「ストーンズらしいロックンロール」系の曲に顕著である。その路線の曲だけを選択して聴くと、前作よりまた一歩進歩しているのがわかる。その点は強調しておきたい。
ちなみに、本アルバムには、そういった音楽以外の点で、今後のストーンズの流れを見る上で、極めて重要な着目点がある。それはデビュー作以来、初めてロンドンでのレコーディングに帰ってきたこと、そして本作からエンジニア、グリンジョンズがスタッフとして加わったことである。グリンジョンズとともにオリンピックスタジオで作られる「ロックの音」。それこそが、これ以降のストーンズの流れを決めるのだ。それは、前述したような「ロックンロール系」の曲のみを選択して聴くことで見えてくる部分である(詳細コチラ参照)。

ちなみに、オレはUK仕様、つまり「Yesterday's Paper」が一曲目のフォーマットで聴く。残念ながら CD化は、シングル 2曲が加わった US仕様で当初行われ、世間的にはその印象が強かったが、UK仕様「Buttons」も、近年無事CD化され、聴くことができるようになった。


There Satanic Majesties Reqest
これは、ライバル(?)「SGT. Pepper's」と同じような印象で、ステレオの方がトリップ感があるが、モノラルの方が統一感があり、ちゃんと「Stones が演奏している」という感じがする。 「Pepper」と違い、こちらのステレオ・ミックスは編集が雑なので(笑)、モノラルの方がアラが見えにくいという利点もある。世紀の駄作という言い方もされていたこのアルバムだが、そんなことは感じない。今聴くと、なかなか楽しめるアルバムという印象だ。オレ自身、もともと嫌いではないが、モノラル・ミックスでは更に印象が良くなった。
音場や定位を気にせず聴けるというのは良いことだ。Stones 聴くのに緊張はしたくない。


Begger's Banquet
そしてプロデューサ、ジミー・ミラーの起用による大名盤。モノラルの、塊のような「まさにロック」であるという音、ルーツミュージック系の音が、犯罪的存在感で迫ってくる。
ジミーミラーは元々ドラマーであり、特にドラムの音やプレイ、リズム系のアプローチなどが、ここから変化したように思う。 ここで初めて「音作りのプロ」と出会った彼らは、以降この路線で王道を進んでいく。彼らにとって「ジミーミラー&グリンジョンズ」は、ビートルズにおける「ジョージマーティン&ジェフエメリック」的な存在だったのだろう。
このアルバム収録曲は、レコーディング時期にばらつきがあり、音やクオリティにも各曲で差があるが、モノラルの方がその差が少なく、落ち着いて聴けるものとなっている。全体的な印象も、泥臭さがいっそう増してゾクゾクする感じ。各曲の長さなども違いがあり、必聴である。ベガバン・マジック、カッコよすぎ。


Let It Bleed
69年ともなればステレオ版もじゅうぶん聴ける内容で、流通的にも主流になってきつつあると思うが、それでも、このモノ版は、すばらしいものである。リズム系&ドラムの破壊的音色はますます冴え、その上にバランスよく乗ったギターやボーカルも、色艶が、よりいっそう増して聴こえる。まさに「ロック」とはこういう音だ!というような主張がここにはあるのだ。
グリン・ジョンズの録った音を細かく確認する意味でも、ステレオ版と合わせて是非楽しんで欲しい逸品。

余談だが、このアルバムのレコーディング中、グリンジョンズは、かの「ゲットバック(詳細参照)」を編集しており、両者の作業はオリンピックスタジオにて、ほぼ並行して行われた。同時期に収録された「Jamming With Edward(Let It Bleed レコーディング時のセッションテープ)」と「ゲットバック」は雰囲気がそっくりである。 この辺から、グリンジョンズの傾向、というものが読み取れるだろう。


45 rpm
前述のシングルボックスで、殆どのオリジナル・ミックスが聴けるが「Child Of The Moon」はステレオ収録されている(2002版でモノに差し替え)。この曲のステレオ・ミックスは、いかにも B面、というような冴えない印象だったが、モノ・ミックスで聴くと、サイケな感じが意外にイケる。また、アルバム収録曲ではあるが「Street Fighting Man」のシングルバージョンは、アルバムバージョンとは若干ヴォーカルミックスが異なり、いっそう混沌とした感覚が味わえる。
シングル曲は、より商品としての完成度が要求されるものだが、前にも書いたように Stones のステレオ・ミックスは、ちょっと頂けなかった。しかし実は、オリジナルは全てモノラル・ミックスで、どれも違和感無く、商品としてちゃんと仕上がっていたのだ。それを知ったときの驚きは忘れられない。近年「Satisfaction」のステレオ・ミックスが CD化されたが、当時もあのミックスだったら、果たして全米 No.1になっただろうか?そういうことである。


UK or US ?
Stones は UKのバンドだから、UKリリースが基本だろう、とオレは考えてきた。つまり、他のブリティッシュ・バンドと同じく、シングルや EP が中心で、アルバムにそれらは未収録、という往年のスタイルだ。だが Stones にその方式は適応されるのだろうか?この辺を、いつも謎に感じていた。彼らにはビートルズというライバルがいた。彼らは先にプロデビューを果たし、前人未到の全米制覇という偉業を成し遂げた。後を追う立場だった Stones が、北米市場を意識していなかったということはないだろう。ビートルズの US仕様アルバムは、米キャピトルが勝手に編纂したものだったが、Stonesの場合は US仕様には US向けの選曲を、ちゃんと考えていたような気がする。前にも書いた通り、オレは、彼らに関してあまり詳しくないから、なんとも言えないが、アンドリューのそんな逸話を、以前どこかで読んだような気がする。とは言いつつも、やっぱり UKなんだよなぁ。あの時代の空気がたまらないのだ。あの中に、こんなバンドも居たなんて、なんだか嬉しくなるじゃないの。最強のロック環境音楽。but I like it ! だな。うむ。


The Roling Stones in mono 2016
というわけで「まさに夢のようである」。
ビートルズ、ボブディラン、ビーチボーイズ、そして遂にはローリングストーンズまでもが「オリジナル」モノミックス!まさかのコンプリート。
これで「やっと」彼らの60年代の全キャリアを「共通したイメージのまま」聴き通すことができるようになったのである。他のどのアーティストにも言えることだが、今までは途中にステレオミックスが混ざっていたり、余計なリミックスなどが在ったりするなどのせいで、全作品を、例えばリリース順やレコーディング順、などといった配列(プレイリスト)で通して聴こうとすると、必ず引っ掛かってしまう箇所があった。今回、モノで全曲聴くことが可能になり、リリース順に並べて何度も通して聴いてみたが、その一貫性が本当に素晴らしく、まるでひとつの長編映画のようにスルーっと頭から終わりまで聴き通せた。
…収集し始めて20年は経っているだろう。長い時を経て、やっとオレにとっての「ストーンズ60年代物語」が終わるのだなと思った。素晴らしい仕事を本当にありがとう、生きて本当によかった、と心から思ったね。

最後にブライアンジョーンズに付いて記しておく。音や分離がクリアになり、各担当楽器や果たした役割などがいっそう明確になったことで、また改めて見えたことや思うこともあった。彼としては、メンバーをスカウトし育て上げたバンドが、有名になることによって、外部のやり手な人々が関わり始め、どんどん自分の手から離れていく様子を見るのは辛かっただろうと思う(現在自分が関わっている「アイドル業界の現実」との相似性について、個人的な思いも重なった)。
今回の音源を通して聴きながら、どんどんブライアンの音が少なくなっていく様子が、まるで彼の元をストーンズがどんどん離れていくドキュメントのようだな、と感じてしまった。
少ない情報でスパッと表現しなければならないモノミックスというのは、そういう現実的な力関係が反映された「残酷な音」でもある。そんな音から聴こえてくる、必死に居場所を探して、なんとか貢献したい、と足掻いているブライアンの様子は痛々しいところもあった。それでも、彼の音は要所要所でキラキラと輝いているのだった。そういう意味では今回のボックスは「ブライアンジョーンズ BOX」と言い換えてもいいような気がした。改めて RIP。



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